おそらくその時の体勢が悪かったのだろう。ちょうど押し花と同じシステムで濡れた金玉に俺の全体重がかかり、変な形になったまま長時間圧力をかけられたため、フォルムが変形してしまったのだ。今、俺の金玉は「手裏剣にしたらよく飛びそうな形」になっている。「工夫したふきだし」と言っても良いかもしれない。試しに金玉に「何!?金玉が変形しだと!?」とマジックで書いて見ると、とてもびっくりした時のセリフのように見えた。金玉であると同時にふきだしとしての機能も兼ね備えているのである。
そしてなにより、薄い。 とても薄い。26年間下半身の番長として存在を主張し続けてきた金玉にしては情けなすぎる厚みである。
金「玉」だと言っているのに、「玉」ではない。ほぼ「板」である。金の延べ板である。世が江戸ならば、2、3年遊んで暮らせそうである。
また、いびつに薄く広がった金玉はズボンとの相性がとてつもなく悪い。どうしても通常ではありえないレベルのもっこりになり、CD-Rをズボンに隠して万引きする人にそっくりになってしまう。金玉も窮屈そうである。なるべくなら金玉には苦労をさせたくない。ゆったりぬくぬくと二世タレントみたいな暮らしをしてもらいたい。
バイトに出かける時間はもう10分を切っている。あいにく俺は、ズボンを一着しか持っていない。このズボンと、薄型金玉の相性はすこぶる悪い。どうしよう。このままでは、CD-Rをズボンに入れて万引きしてる人そっくりなまま、CD-Rを売らなくてはいけない。よりにもよって俺は、最近CD-R売り場の担当に任命されたのだ。どうしてこのタイミングで・・・。ああ、こんなことなら、金玉の形が変わった時のために、宮川大輔とかがよく履いてる股上の異様に浅いオシャレズボンを買っておくんだった・・・。
途方にくれた俺は、試しに金玉の一端を折り曲げてみた。するとどうだろう、金玉は折れ曲がったまま元に戻らないのである! 触った感じも人体というよりかはプラスチックに近い。普通の金玉は、折り曲げても元に戻る。しかし、圧縮されて固くなった金玉は折り曲げても元に戻らないのである。やった!金玉を何度か折り曲げると、王冠と同じ形になった。なんだか気分がいい。
もしかすると神様は俺が「金玉の王」であると教えてくれているのか・・・?